「また逃げた…」ADHDの子どもが嫌なことから逃げる本当の理由とは?

公開日:2025年7月22日
更新日:2025年7月22日

「また逃げた…やればできるのに」そう感じるのは親として自然なこと。でもADHDの子どもが苦手に向き合うことは、大人の想像以上に大変な挑戦です。
このコラムでは、なぜ避けてしまうのかという理由、少しずつ「やってみよう」と思えるようになる家庭での関わり方をご紹介します。

目次

なぜ嫌なことを避けてしまうの?|ADHDの特性との関係

「また嫌なことから逃げてる…」そんな子どもの様子を見て、思わずイライラしてしまったり、「わがままなのかな」と感じてしまうこともあるかもしれません。
でも実は、ADHDの子どもが嫌なことを避ける行動の背景には、特性ゆえの“どうしようもなさ”が隠れていることがあります。
ここでは、その理由を理解するために、ADHDの子どもたちが「避ける」という行動をとる根本的な背景を解説します。

1. 「さぼり」や「わがまま」とは違う、特性による困りごと

ADHDの子が嫌なことから逃げるように見える時、多くの保護者は「さぼっているのでは?」「甘えているのでは?」と感じがちです。しかし、実際には本人も「やらなきゃいけない」と頭ではわかっていることがほとんどです。

ただ、ADHDの特性を持つ子どもは、「やるべき」と理解していても、それを実際の行動に移す力(実行機能)に困難を抱えていることがあります。つまり、行動の切り替えや気持ちのコントロールが難しいために、「逃げている」ように見える行動をとってしまうのです。
これは意図的な「さぼり」や「わがまま」とは、本質的にまったく異なるものです。

2. 「すぐに始める」が難しい脳の特性

ADHDの子どもは、「やる気を出す」「すぐに取りかかる」といった行動が、定型発達の子と比べて特に難しい傾向があります。これは脳の中で行動のスイッチを入れる仕組みがうまく働きにくいためです。

やることが頭でわかっていても、体が動かなかったり、気持ちがそちらに向かなかったりするのは、脳内の前頭前野(計画や行動のコントロールに関係する部分)の働きに特性があるからだとされています。
その結果、まわりからは「ぐずぐずしている」「やる気がない」と見えてしまいがちですが、本人にとっては「始めたくても始められない」というもどかしさを感じている場合も多いのです。

3. 先が見えないと不安になる|タスクの見通しが苦手な子も

ADHDの子どもは、「これから何を、どのくらいやればいいのか」が見通せないと、強い不安を感じやすい傾向があります。
例えば「宿題をやりなさい」と言われた時に、「何ページあって、どれだけ時間がかかるか」がイメージできないと、それだけで大きなストレスとなり、「とにかくやりたくない…」と思ってしまうのです。

これはワーキングメモリ(作業記憶)の働きが弱いことや、タスクの全体像を捉える力が育ちにくいことと関係しています。
大人にとっては「ちょっと頑張れば終わること」でも、子どもにとっては終わりの見えない迷路のように感じられることもあるのです。

4. 脳の働きで「気が進まない」が強くなる理由

ADHDの子どもは、脳の報酬系がうまく機能しづらいとされ、「楽しい・嬉しい・やりたい」と感じる回路が働きにくいことがあります。
そのため、特に興味のないことや苦手なことに対してはモチベーションが湧きにくく、「気が進まない」「やりたくない」が人一倍強く出てしまうのです。

また、嫌なことに対しては脳が過敏に反応しやすく、不快感やストレスへの感度が高いとも言われています。このような神経の働きから、「嫌なこと」へのハードルが非常に高くなり、避ける行動が習慣のようになっていくこともあります。
これは単なる“やる気の問題”ではなく、脳の感じ方そのものが違うという理解が必要です。

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嫌なことを避け続けるとどうなる?|子どもに与える4つのストレス

ADHDの子どもが「嫌なこと」を避ける背景には、脳の特性や見通しのつきにくさといった“仕方のない理由”がある一方で、避け続けることで心にストレスが溜まっていくことも見逃せません。
そのストレスは、やがて子どもの自己肯定感や行動パターンに大きな影響を与えることがあります。
ここでは、避ける行動が続くことでどんな心理的負担が生まれやすいのかを、4つのポイントに分けて見ていきましょう。

1. 「どうせ自分なんて…」と自己肯定感が下がる

何かを避けるたびに、子どもは「またできなかった」「他の子はできるのに…」と、自分を責める気持ちを少しずつ抱えていきます。
この様な経験を繰り返すうちに、「自分はダメな子」「やってもどうせ失敗する」といった思い込みが根づき、自己肯定感の低下につながることがあります。

この状態になると、「挑戦しよう」という気持ちすら起きにくくなり、子どもにとっての小さな壁が、いつしか大きな“自信のなさ”として積み重なっていきます。

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2. あきらめがクセになり、新しい挑戦を避けるように

「どうせうまくいかないから、やらない」「やっても意味ないから、もういい」そんな言葉が口ぐせになってきたら要注意です。
嫌なことを避ける行動が続くと、「やらないことで安心する」という“逃げのパターン”が習慣化してしまうことがあります。

一度このクセがつくと、新しいことに対しても「無理」「失敗するかも」と最初からあきらめるようになり、本当はできることでも避けてしまうようになるかもしれません。

3. 叱られる→避ける→また叱られる…の負のループ

避けたことで叱られ、叱られるのが嫌だからまた避けて…というように、親子間に“負のループ”ができあがってしまうこともあります。
こうなると、子どもはますます「怒られる前に逃げよう」「どうせわかってもらえない」と感じ、親は「また逃げた」とイライラし、お互いの信頼関係にも影を落とすことになります。

このようなループを断ち切るには、まず親の側が「叱る前に理解しよう」という姿勢を持つことがカギになります。

4.「また失敗するかも…」という不安が蓄積する

避け続けた経験が増えるほど、「やってみよう」と思った時に過去の失敗が頭をよぎり、不安のブレーキがかかってしまうことがあります。
たとえ少し前向きな気持ちになったとしても、「また失敗したらどうしよう…」「できなかったら恥ずかしい」といった思考が先に立ち、行動に移せなくなるのです。

この不安は、目には見えませんが、子どもの心の中に静かに積もっていくストレスです。そしてそれが、「嫌なことはやらない」という選択をより強固にしてしまうことにもつながります。

逃げる=ダメじゃない!子どもを責めずに支える4つのコツ

嫌なことから逃げる行動が続くと、つい「また逃げたの?」と叱ってしまったり、「甘やかしてはいけない」と感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし、ADHDの子どもにとって「逃げる」は自分を守るための行動であることも多く、そこには本人なりの“困りごと”が隠れていることがあります。
ここでは、そうした子どもの背景に目を向けながら、責めずに支えるための視点と関わり方について4つのポイントを紹介します。

1.「やりたくない」ではなく「どうしたらいいかわからない」だけ

ADHDの子どもは、「やりたくない」という気持ちよりも、「どう始めたらいいかわからない」「どう乗り越えればいいのかが見えない」といった“方法が見えない不安”に直面していることが多くあります。

つまり、避ける行動は意欲の問題ではなく、「何をすればいいのかが整理できない」という特性からくる“立ちすくみ”なのです。
まずは、「本当にやりたくないのか、それともやり方がわからないのか?」という視点で見つめ直してみることが、支援の第一歩になります。

2. 叱る前に「困ってるのかも?」と視点を変えてみる

嫌なことから逃げるような行動が続いた時、最初に湧いてくるのは「どうしてやらないの?」「また?」という苛立ちかもしれません。
しかし、そこで叱るよりも先に、「もしかして困ってるのかも?」と問いかける視点を持つことが、とても大切です。

「どうしてやらないの?」ではなく、「何がやりにくい?」「どこで止まってる?」といった声かけに変えることで、子ども自身も「助けてって言っていいんだ」と感じられるようになります。これは、親子の信頼関係を育む関わり方のひとつでもあります。

3. うまくいかないのは親のせいでも子のせいでもないと考える

子どもが避ける行動を続けていると、親は「自分の育て方が悪いのでは?」と責めてしまいがちです。反対に、子どもに対して「あなたが怠けているから」と責任を押しつけてしまうこともあるかもしれません。

でも実際には、うまくいかない原因は誰かひとりのせいではなく、環境・特性・タイミングなどが複雑に絡んだ“状況”であることが多いのです。
「できないのは、親も子も悪くない」と一度立ち止まって受け入れることが、子どもに対する考えを柔軟にし、親子の関係を守る力にもなります。

4. 一緒に考え、乗り越える姿勢を大切に

ADHDの子どもにとって、「ひとりでなんとかしなさい」と言われることは、時に“見放された”ように感じることもあります。
そんな時こそ、「一緒にどうしたらいいか考えよう」「一緒にやってみよう」と“伴走する姿勢”を見せることで、子どもは少しずつ前を向けるようになります。

たとえ、うまくいかないことがあっても、近くにいる大人が「次はこうしてみようか!」と前向きに関わることで、「自分はひとりじゃない」という安心感が子どもを支える土台になります。

嫌なことにも向き合える!家庭でできる5つのサポート

「逃げずにやってほしい」「嫌なことにも立ち向かってほしい」そんな願いを抱く一方で、ADHDの子どもにとって“向き合う”こと自体が高いハードルになることもあります。
だからこそ、親ができるサポートは、「逃げないようにさせる」ことではなく、「やってみよう」と思える環境や工夫を整えることです。
ここでは、日常の中で取り入れやすい5つの具体的なサポート方法をご紹介します。

1.「やること」を小さく分けて取り組みやすくする

「宿題をやる」「片づけをする」といった大きな指示は、ADHDの子どもにとってはとても曖昧で、億劫に感じられることがあります。
そんな時は、タスクを具体的かつ小さな単位に分けて伝えることが有効です。

例えば、「宿題をやろう」ではなく「算数の1ページ目だけやろう」「問題1〜3を先にやってみよう」といった風に、小さなステップに区切ることで、“できそう”と思えるハードルに変わります。
最初の一歩を踏み出しやすくなると、その後の行動にもつながりやすくなります。

2. やる順番や時間を“見える化”して見通しをつける

「この後何をするのか」「どれくらいで終わるのか」がわからないと、不安や抵抗感が強くなるのはADHDの子どもによくある特徴です。
そこでおすすめなのが、やることの順番や時間の流れを“見える形”にすることです。

ホワイトボードや付箋、タイマー、スケジュール表などを使い、「今はこれ」「次はこれ」「終わったら○○」と明確に示すだけで、子どもはゴールまでの道筋をイメージしやすくなり、安心して取り組めるようになります。

3. 「終わったら○○できる」ごほうび作戦も活用

ADHDの子どもは、「今つらいけど、終わった後には楽しいことがある」と思えることで、モチベーションを保ちやすくなることがあります。いわゆる「ごほうび作戦」です。

例えば、「これが終わったらゲーム10分できるよ」「1ページ終わったらおやつにしよう」といった具体的な“楽しみ”を提示することで、嫌なことにも取り組みやすくなります。
大事なのは「すぐ先にある達成感」を見せることです。長期的な目標よりも、今この瞬間を乗り越えるための工夫として活用しましょう。

4. 子どもに選ばせることで納得感とやる気がUP

「何からやる?」「ここまでは自分で決めていいよ」といった声かけで、子ども自身に選ばせる場面を与えることも効果的です。
選択肢があることで、子どもは「やらされている」のではなく「自分で決めた」と感じやすくなり、納得感とやる気がぐっと高まります。

特にADHDの子どもは、コントロールされることへの抵抗感が強く出ることもあるため、“選べる余地”を意識的に用意することが、気持ちの安定にもつながります。

5.「失敗しても大丈夫」と伝えることで挑戦しやすくなる

ADHDの子どもは、過去の失敗体験から「また失敗したらどうしよう…」という不安を抱きやすく、チャレンジ自体を避けるようになることがあります。
だからこそ、「失敗しても怒らないよ」「うまくいかなくても大丈夫」と、失敗を受け止めるメッセージを繰り返し伝えることが大切です。

子どもが安心して挑戦できる土台は、「うまくいかなくても見捨てられない」と信じられる環境です。その安心感が、少しずつ「やってみよう」という意欲を育てていきます。

まとめ

ADHDの子どもが嫌なことから逃げるように見える背景には、本人の努力だけではどうにもならない困りごとがあります。大切なのは、行動だけを責めるのではなく、その背景にある気持ちや特性に目を向けること。少しずつ「やってみよう」と思える関わりや工夫が、子どもの前向きな一歩を支えていきます。

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