発達障害の子が人間関係を築けないとき｜親ができる支援と関わり方のヒント

発達障害の子どもが「友だちができない」「集団になじめない」などの悩みを抱えたとき、親はどう支えれば良いのでしょうか？本コラムでは、人間関係がうまくいかない背景や原因、家庭でできるサポート、学校や専門機関との連携方法まで、具体的にわかりやすく解説します。

なぜ人間関係が苦手なのか？｜発達障害の特性から見えてくる6つの背景

発達障害のある子どもが「人間関係を築くのが苦手」と感じてしまう背景には、本人の努力不足や性格の問題ではなく、脳の特性による“感じ方”や“伝え方”の違いがあります。
ここでは、ASD（自閉スペクトラム症）やADHD（注意欠如・多動症）に見られる代表的な特性と、それが対人関係にどう影響するのかを具体的に見ていきましょう。

1. ASDの特性：表情や空気を読むのが苦手で誤解されやすい

ASDの子どもは、相手の表情や声のトーン、場の雰囲気といった、いわゆる「空気を読む」ことが苦手な傾向があります。
そのため、冗談を真に受けたり、場に合わない発言をしてしまったりして、周囲から「空気が読めない」「変わってる」と誤解されてしまうことがあります。

本人は悪気があるわけではなく、感じ方の違いからそうなってしまうだけなのですが、周囲がそれを理解していないと、距離を置かれてしまう原因になります。

2. ASDの特性：会話のキャッチボールが一方的になりやすい

ASDの子どもは、自分の興味があることに強く集中する傾向があり、会話の中でも相手の反応にかかわらず、自分の話を続けてしまうことがあります。
逆に、相手からの質問に対して意図が読み取れず、返答がかみ合わないこともあります。

こうした“会話のズレ”が重なると、「一方的な人」「話が通じない」と思われてしまい、人間関係がぎくしゃくすることがあります。これには、会話のルールを感覚的に学ぶのが難しいという特性が背景にあります。

3. ADHDの特性：衝動的な言動で相手を驚かせてしまう

ADHDの子どもには、思いついたことをすぐに口に出してしまう「衝動性」が見られることがあります。
例えば、人が話している途中で割り込んでしまったり、からかいのつもりで言ったことが相手を傷つけてしまったりすることがあります。

本人に悪意はなくても、「マナーがない」「空気が読めない」と誤解されてしまうと、トラブルの原因になりやすくなります。行動と言葉のタイミングを調整するのが難しいのもADHDの特徴のひとつです。

4. ADHDの特性：注意がそれやすく話を最後まで聞けないことも

ADHDの子どもは、周囲の刺激に反応しやすく、注意があちこちに向かってしまうことがあります。
その結果、相手の話を最後まで聞けなかったり、会話の内容が理解できずに話がかみ合わなくなったりすることがあります。

一見すると「人の話を聞いていない」「興味がない」と思われがちですが、集中力を保つのが難しいという特性によるものです。これが繰り返されると、人とのやり取りに苦手意識を持つようになる子もいます。

5. 共通する困りごと：「マイルール」や「感覚の違い」が摩擦を生むことも

ASDやADHDに限らず、発達障害のある子どもは、自分なりのルールやこだわり、感覚の違いを強く持っていることがあります。
例えば、「遊び方はこうでないと嫌だ」「音や匂いが気になって落ち着かない」など、本人にとっては重要なことが、他の子には理解されにくいことがあります。

このような違いが人間関係の中でぶつかると、「協調性がない」「わがまま」ととらえられがちで、トラブルになりやすくなります。

6. 周囲の無理解が“本人の問題”として片付けられてしまう現実

発達障害のある子どもの困りごとは、周囲の理解があれば緩和できるものも多くあります。
しかし、現実には「本人が悪い」「親のしつけがなっていない」といった偏見や誤解が根強く残っており、困難が本人の責任にされてしまうケースも少なくありません。

人間関係に悩んでいるのに、「ちゃんとやりなさい」とだけ言われると、子どもはますます自信を失い、関わる意欲もなくなってしまいます。
周囲の理解と支援が欠かせないことを、まず大人がしっかり認識する必要があります。

発達障害チェックリストについてもっと知りたい方はこちら
⇒ 「発達障害チェックリスト【中学生のお子さん向け】」

人間関係が築けないことで、子どもにどんな影響がある？

発達障害の特性によって人間関係がうまく築けないと、子どもはさまざまな悩みやストレスを抱えることになります。その影響は目に見える行動だけでなく、心の中の不安や自己評価の低下として現れることもあります。
ここでは、人間関係のつまずきが子どもの心や生活にどのような影響を与えるのか、主な5つのパターンを見ていきましょう。

1. 孤立することで自信をなくし、自己肯定感が下がっていく

周囲と関係がうまく築けないことにより、一人で過ごす時間が増えてくると、「自分は嫌われているのかもしれない…」「どうせわかってもらえない…」という思いが強くなってしまいます。

その結果、自分に対する信頼や「自分はこれでいいんだ」という感覚（自己肯定感）が低くなり、チャレンジや人との関わり自体を避けるようになってしまうことがあります。

2. いじめやからかいの対象になり、さらに関係を避けがちになる

発達障害の特性ゆえの行動の違いや反応のズレが、クラスメイトのからかいやいじめの原因になることもあります。
「ちょっと変わっている」「空気が読めない」と見られた子が、からかわれたり無視されたりするのは珍しくありません。

こうした体験が重なると、子どもは「人と関わるのは怖い」「関係を築いても傷つくだけ」と感じてしまい、自ら関係を避けるようになる悪循環に陥ることもあります。

「発達障害・グレーゾーン」と「いじめ」の関係性についてもっと知りたい方はこちら
⇒ 「「発達障害・グレーゾーン」と「いじめ」の関係性について」

3. 無理に周囲に合わせようとして心が疲弊するケースもある

学校や家庭の中で、「友だちと仲良くしよう」「みんなと同じように行動しよう」と繰り返し言われることで、本当は苦手なのに無理をして周囲に合わせようとする子もいます。

一見、うまくやれているように見える場合でも、内心では「自分を押し殺して合わせている」可能性があり、その場合には、疲れやストレスが徐々に溜まっていきます。
このような「無理をしている」状態は、長期的には心の不調につながることがあります。

4. 「人と関わりたいけどできない」葛藤を抱えることがある

人間関係に苦手意識がある子どもの中には、「本当は友だちがほしい」「仲良くなりたい」という気持ちを強く持っている子が多いです。

しかし、うまく関われない経験が続いたり、失敗を繰り返したりすると、「またうまくいかないのでは」と不安やあきらめが先に立ってしまうことがあります。
「友達と仲良くしたいけど、うまくできない」という気持ちの間で揺れ動く葛藤は、子どもの心に大きなストレスを与えます。

5. 二次障害（不登校・抑うつなど）につながることもある

人間関係のつまずきが長引くと、不登校や抑うつ状態、強い不安感などの“二次障害”に発展するケースもあります。
例えば、「学校に行きたくない」「朝になるとお腹が痛くなる」といった身体的なサインとして現れることもあります。

こうした状態になる前に、子どもの小さなサインやSOSを大人が早くキャッチし、無理をさせない環境づくりがとても大切です。

発達障害・グレーゾーンの子どもについてもっと知りたい方はこちら
⇒ 「発達障害・グレーゾーンの子どもが不登校になる原因とは？」

家庭でできる支援と“その子らしさ”を尊重する9つの関わり方

人間関係に悩む発達障害の子どもにとって、家庭は「自分らしくいられる大切な居場所」です。
学校や遊びの中でうまくいかないことがあっても、家庭で安心して話せる・受け止めてもらえることは、子どもの心の土台になります。
ここでは、家庭の中でできる具体的な関わり方を9つご紹介します。どれも難しいことではありませんが、「その子らしさ」を尊重する意識が大切なポイントです。

1. 子どもの困りごとを否定せず、まずは「共感して聴く」

子どもが「会話がうまくいかなかった」「友だちとトラブルになった」と話してきた時は、すぐにアドバイスしたり注意したりする前に、まずは「そうだったんだ」「つらかったね」と共感の気持ちで聴くことが大切です。

大人に受け止めてもらえることで、子どもは「自分の気持ちは大事にしてもらえる」と感じられ、自己肯定感や安心感につながります。

2. 「どう思った？」「こういう時はどうする？」の会話練習が効果的

日常会話の中で、具体的な場面を想定して「どう感じた？」「その時は何て言えばよかったって思う？」とやさしく問いかけることで、気持ちを整理したり、次にどう対応するかを考える力が育ちます。

これは叱るのではなく、「一緒に考える」姿勢がポイントです。対人スキルの土台を家庭で少しずつ練習するような感覚で取り組んでみてください。

3. おままごとやロールプレイで楽しみながら関わり方を学ぶ

上記の会話練習が難しい子には、遊びの中で自然にやりとりの練習ができる方法も有効です。
例えば、「お店屋さんごっこ」「先生と生徒」など、役割を演じるロールプレイを通じて、相手の立場を考えたり、会話のキャッチボールを学ぶことができます。

楽しく取り組める形で「人と関わる体験」を積むことが、無理なく社会性を育てる一歩になります。

4. 「一人でいるのが好き」もOK｜無理に友達を作らせない

大人が「友だちは多い方がいい」という価値観を押しつけてしまうと、無理をして人と関わり、かえって疲れてしまう子もいます。
一人の時間の方が、本人が安心できるのであれば、それも「その子らしさ」として尊重しましょう。

周囲と比べず、「自分はこのままで大丈夫」と感じられる経験のほうが、子どもの心には何倍もプラスに働きます。

5. 得意や興味を活かした“つながりのきっかけ”をつくる

子どもが好きなことや得意なことを通じて、「同じことが好きな人」と出会えると、自然な形でつながりが生まれやすくなります。

例えば、鉄道が好きなら電車イベント、動物が好きなら動物園でのワークショップなど、「共通の話題がある場所」に出かけるだけでも、無理のない人との接点になります。

6. 少人数や大人との関係など、安心できる関係を育てる支援も有効

同年代の友人だけに拘らず、子どもが安心できる相手と関係を築くことも、貴重な人間関係の経験です。
例えば、学校の先生、親戚、家庭教師、近所の大人など、大人との信頼関係の中で、安心して自分を出せるようになる子もいます。

「誰とでも仲良く」よりも、「この人とは心地よい関係が築ける」という感覚を育てることが大切です。

7. 親の価値観や「普通」にとらわれすぎないよう意識してみる

「これくらいはできて当たり前」「他の子はできているのに」そんな思いが、知らず知らずのうちに子どもを追い詰めてしまうことがあります。

子どもの行動や選択に対して、親自身が「本当にこの言葉掛けは適切なのか？」と立ち止まってみることで、無意識のプレッシャーを手放すことができるかもしれません。

8. 小さな“うまくいった”経験が自信につながるよう支えていく

たとえ小さな一歩でも、「今日は自分から挨拶できた」「今日は仲良く一緒に遊べた」といった成功体験は、子どもの自信の種になります。
親としては、その瞬間を見逃さず「できたね！」「がんばったね！」と声をかけてあげることが大切です。

「やってみよう」「また関わってみたい」という意欲の循環を家庭で支えていきましょう。

9. 成長とともに関わり方が変わる可能性もあると信じて見守る

今はうまくいかなくても、成長の過程で関わり方や感じ方が変わっていくことも多くあります。
今の困りごとを「ずっと続くもの」と思い込まずに、「この子なりのペースで育っていく」と信じて見守る姿勢が、子どもにとって大きな安心になります。

子どもを信じるまなざしこそが、もっとも深い支援になることもあるのです。

学校や専門機関と連携しよう｜子どもを孤立させないために

家庭での支えだけでは難しいと感じるときは、学校や専門機関と連携することが大きな力になります。
一人で抱え込まずに、外部のサポートを受けることで、子どもにとっても保護者にとっても負担を減らし、安心できる環境を整えていくことができます。
ここでは、連携の具体的な方法と、主な相談先について解説します。

1. 担任や支援担当の先生に「具体的な困りごと」を共有する

学校での支援は、まず担任の先生との連携が基本になります。
「どんな場面で困っているのか」「家庭での様子はどうか」など、なるべく具体的に伝えることが、適切な対応につながります。

また、学校に支援担当の先生（特別支援コーディネーターなど）がいる場合は、学校全体でのサポート体制を検討してもらえることもあります。早めに相談することで、無理のない関わり方を一緒に考えてもらえます。

2. 通級指導や支援学級の活用で、集団とのバランスをとる

通常学級だけでは難しさを感じる場合は、通級指導教室や支援学級（特別支援学級）といった制度の活用も選択肢のひとつです。
こうした環境では、個別の特性に応じた指導や、より落ち着いた環境での学びが可能になります。

一方で、「完全に分ける」ことに不安を感じる保護者もいますが、現在では柔軟に組み合わせて利用できるケースも多く、子どもの様子を見ながら調整することができます。

3. 地域の発達支援センター・療育機関を頼る

家庭や学校だけでは対応が難しい場合には、地域の発達支援センターや療育機関への相談が効果的です。
これらは、発達検査や専門家によるアドバイス、親子通所によるトレーニングなど、多面的なサポートが受けられる場所です。

「こんなこと相談してもいいのかな？」と迷う前に、一度問い合わせてみることで、今の困りごとを整理し、先の見通しを立てる手助けにもなります。

4. 親の孤立を防ぐ「保護者同士のつながり」も大きな支えに

発達障害の子を育てていると、周囲に理解されにくく、親自身が孤独を感じてしまうこともあります。
そんなときに役立つのが、同じような悩みを持つ保護者とのつながりです。

自治体や支援センターが主催する保護者向けの勉強会・交流会、オンラインの親の会なども含めて、「わかってもらえる場所」があるだけで気持ちが軽くなることも多いです。

5. 支援は“早すぎることはない”｜迷ったらまずは相談を

「もう少し様子を見よう…」と先送りにしているうちに、子どもがさらに苦しさを深めてしまうこともあります。
支援は、早ければ早いほど良いとされています。問題が小さいうちに手を打つことで、状況の悪化を防げる可能性が高まります。

「このくらいで相談していいのかな…」と迷った時こそ、まず一歩踏み出して話をしてみることが大切です。親が動くことで、子どもにとっての支援の扉が開きます。

まとめ

発達障害のある子どもが人間関係に悩む背景には、特性ゆえの“すれ違い”や“誤解”が多くあります。だからこそ、家庭での寄り添いと、学校や専門機関との連携が大切です。
大人が子どもの特性を理解し、その子らしい関わり方を尊重することで、少しずつでも「安心して人とつながる力」は育っていきます。焦らず、見守りながら一歩ずつ進んでいきましょう。
子どもにとっての「ちょうどいい距離感」は、大人が導くのではなく、子ども自身が見つけていくものです。その歩みを信じて、親としてできることを少しずつ積み重ねていきましょう。

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